5分だけ遠回り~ささやかな風景パートⅢ~

先日加古川ゴルフ倶楽部でラウンドを終えた後、スタート時間が早かったせいもあり、ゆっくりお湯にも浸ったにもかかわらず、時計を見るとまだ3時前だった。
私に少々悪戯心が芽生えて、鴨池のほとりにひっそりと佇むように存在するボート小屋を思い出し久しぶりに訪れたくなった。エアコンのない小屋は、すべての窓が開け放たれている。見渡したが客は私以外誰もいない。見覚えのある化粧気のない40歳前後で無造作に髪の毛を後ろで束ねた女性が、その日は、梅雨明けと同時に猛暑日に近い気温に上昇したため、かき氷を注文する客が多かったのであろうか
「いらっしゃいませ、かき氷ですか」と尋ねる。私は「いえ、りんごジュースください」とオーダーする。
リンゴジュースを一息で半分近くまで飲み干した私は、お店の前の池に鴨が飛来してくるとこのお店を閉じて、去っていくと再び開店することを、以前の会話で知っていたので
「鴨はいつ頃渡ってくるのですか?」
「9月末か、10月にかけてです」
「すると来年3月頃までお休みになりますね」
その清楚感溢れる女性は、当たり前のことだが私のことは全く記憶にはない様子だった。
「ボートに乗ってブラックバスを釣るのですね?」
「バス釣りの人が多いですが、単にボートに乗って楽しむ人もいます。まあカップルが多いですが」
「朝は何時から開いているのですか?」
「六時からです」
「えっ6時ですか?早いですね。」
「バスは朝早くでないと釣れませんから」
「終わりは何時ですか?」
「5時です。その間一日もお休みはありませんから」
「いくらですか?」
「300円です。」
財布を見ると一万円札しかなかった。
「ちょっと車までお金取りに行きます。」と言ってバックを置いたままにして、小銭入れから300円支払った。支払うときにかすかに微笑んだような気がした。
次に来た時には少しでも覚えてくれていると、いいなあ、なんて思いながら車のエンジンを始動した。
5分間だけ遠回りした真夏の出来事である。

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